【書評】『決められない患者たち』

決められない患者たち

決められない患者たち

 

GW中は最終日以外毎日飲んでましたが、積読もすこしは消化しました。

たまには書評なんかもしてみましょう。まあ、ビブリオバトルで紹介するほうがすきなんですが笑

 

この本は名著『医者は現場でどう考えるか』の著者の最新作ですが、内容は医療コミュニケーションにおける意志決定の問題を取り扱っています。
邦題はやや誤解を生むかもしれません。

原題は『Your Medical Mind - How to decide what is right for you』となっています。


本書は医療コミュニケーションだけでなく、リスクコミュニケーション、行動経済学、医療倫理、意志決定論などに関心のある方にはお勧めできるでしょう。


以下、この本で重要だと思われるポイント。

・治療方針を策定する上で、患者自身だけでなく医療者自身の信念を分析する必要がある。

→「信じる者」vs『疑う者」
「信じる者」は、問題解決策が明確に存在すると考えて治療に臨む。一方「疑う者」は、強い懐疑主義を持って全ての治療オプションを検討する。極めてリスク忌避的であり、副作用や治療の限界にも敏感である。

→「最大限主義者」vs 「最小限主義者」
「最大限主義者」は自分の健康管理に関して積極的であり、「ほとんどの場合、多ければ多いほど望ましい」という信条を持つ。「最小限主義者」の人々は、治療を出来るだけ回避する。どうしても治療が必要となった場合でも、少ない種類の薬を最小限服用し、最も控えめな手術あるいは処置を受けることを選ぶ。

→「自然志向」vs 「技術志向」
自然主義志向」の人は代替医療や自然療法に積極的であり、自然治癒力を重視する。その対極が「技術志向」で、新薬や革新的治療法を生み出す最先端の研究成果を自分の治療方針に取り入れようとする態度である。

・治療のリスクは本来極めて不確実性に富むのだから、必ずしも統計的データが意志決定に役立たないことがある。

→ 副作用や合併症、痛みなどのリスクを過大に見積もる、客観的で母数の多いデータよりも「友人、知人の話」を信用する、信念と合わない治療方針を受け入れて失敗した場合に後悔することが少なくない、といった意志決定の研究成果は示唆に富む。

・現状行われている終末期の意思表示(≒リビングウィル)には根本的な欠陥がある。

→ 健康な状態の時に将来の困難な状況を想像するのは困難。例えば、延命措置拒否という方針が覆されることが少なくない。不幸な状況に陥っても人間は「生きようとする」適応力を発揮する。

・「患者中心の医療」という欺瞞

→ 医学は不確実な科学であり、「どんな治療がベストか」といった問いに単純に答えることはできない。患者も医療者も個々に信念があり、治療の意思決定にはある程度時間をかけて信頼性を構築し、調整する必要がある。リスクの計算可能性は限界があるから、標準化された医療「システム中心の医療」には限界がある。リスクを膨大なデータとして分析して、患者に情報開示して意思決定を一任する「患者中心の医療」は実のところ、効率一辺倒の「システム中心の医療に他ならない。



とまあ、長くなりましたが、具体的な患者ー医療者のルポタージュが中心なので非常に読みやすいです。
現場で働くようになってからまた読みたいですね。

それと、もし自分の周りに大病を患ったり、重大な治療上の選択に関わっている人がいたら勧めたいと思いました。


「重要なのは治療に関しての志向である。その志向を基に、自分の価値観、生き方にあった良い治療法を選ぶことが可能になるのだ。そして自分の志向の理解は、自分自身の考え方を振り返ってみることから始まる」

これって、治療以外にも働き方とかライフスタイルにも言えることだと思うのです。
治療はあくまで結果ではなくプロセスなので、その方針に人生の過ごし方がそのものが反映されるのでしょう。


「最も望ましいプロセスは、医師と患者の間の『共有された意思決定』と呼ばれる。治療のリスクと利益の情報を一緒に吟味したした後、患者の気持ちと志向に合わせて治療をカスタマイズする、ということだ。自分の意向を理解した主治医とともに考え決断するということは、決断の重荷を分かち合い、自分が将来後悔するリスクを減らすことを意味するのだ」

患者はカスタマー(顧客)ではなく、パートナーであるという認識を双方が持つべき、ということになりましょうか。

僕もこの考え方には心から同意します。