若き外科医への手紙

〇〇××先生

 2年間の臨床研修修了おめでとうございます。オリエンテーション期間から外科ローテーションにかけて○○先生には大変お世話になりました。ERでは「内科はもう二度と診たくない」と毒を吐きつつ、救急車に翻弄されるわたしを何度も助けてくださり、感謝してもしきれません(笑)

 

(中略)

 

 さて、これで終わってしまっては心残りですので、少々長くなりますが外科医になられる○○先生には、私からお願いがあります。●●先生も同様のことを仰っていましたが、「外科医が患者を見捨てたら、その患者は絶望するしかない」、すなわち「外科医は治療における最後の砦」です。外科をローテーションして、外科の先生方は、日々知識や手技の研鑽を積むだけでなく、生死の境目で絶望の淵に立たされた患者さんやご家族と向き合い、最後の砦としての責務を果たされているとひしひしと感じました。私自身、身内で何人かがんになり、ある外科医の方には懇切丁寧に治療していただきましたが、一方で心無い外科医の対応で不信感が生まれたこともあります。外科医は患者さんにメスを入れることで、身体だけでなく、心にも深く侵襲を加えているということを、どうかいつまでも忘れないで下さい。

 先生も読まれていたV.E .フランクルは、『夜と霧』の中でこう言っています。

 

自分を待っている仕事や愛する人間に対する責任を自覚した人間は、生きることから降りられない。まさに自分が「なぜ」存在するかを知っているので、ほとんどあらゆる「どのように」生きることにも耐えられるのだ

 

 手術をしても予後が厳しかったり、外科的適応がなかったりして絶望に追いやられてしまう患者さんやご家族も少なくはありません。それでも、医師には治療以外のことでできることはあります。むしろ、「最後の砦」としての医師の重要な仕事のひとつだと私は思います。ここにはエビデンスガイドラインも存在しませんが、外科医だけでなく、内科医でも、私が目指す精神科医でも、自分なりの医師としてのあり方をもって応えなければなりません。シビアな状況に立たされて絶望しそうな患者さんが、少しでも「生き続けることへの意味」に向き合えるように、外科医として、ひとりの人間として、考え続けていただければ幸いです。

 長くなりましたが、これをもちまして私から○○先生への贈る言葉とさせていただきます。大変お疲れ様でした。今後ともよろしくお願い申し上げます。